統合失調症とADHDは症状が似ている?違いと有効な治療法を解説
注意欠陥・多動(ADHD)と統合失調症は似ている部分があるため、発症に気づかないことも少なくありません。
統合失調症の治療は、発症からの期間が短いほど効果を期待できます(※注)。できるだけ早期発見し、治療に当たることが大切です。
早期発見には、ADHDとの違いを認識しなければなりません。
この記事では、統合失調症・ADHDそれぞれの原因と特徴を説明します。両者の違いを端的に理解できるでしょう。
併発の状況と、両者に共通する治療方法も説明します。
※注)富山大学附属病院の説明を参照
(参照:統合失調症の早期診断・早期治療 | 富山大学附属病院)
1.統合失調症の原因と特徴
統合失調症は一部の症状がADHDと似ているものの、主要な症状は大きく異なります。
統合失調症の原因と特徴を説明します。
1-1.神経発達の異常と身体的・外的ストレスが発症の原因
統合失調症は単一の原因で発症するものではありません。複数の要因が重なることで、思春期以降に発症しやすいと言われています。
原因の究明に有力なのは、神経発達の異常(発症をもたらす因子)に、身体的・外的ストレスが結びつく仮説です。
統合失調症を発症する人には、発症しやすい因子があります。
因子になり得るのは、
・遺伝子の障がい
・周産期の障がい
・脳の軽度の構造異常
・脳の機能異常
の4つです。
いずれかの因子をもつ人が、次の身体的・外的ストレスにさらされると、統合失調症を発症します。
・性ホルモンの変化
・社会環境の変化
・生活上の困難や苦労
統合失調症は中学生までに発症するのは稀です。中学生までは、上記のストレスにさらされる機会が少ないためです。
(参照:脳科学から見た統合失調症 | すまいるナビゲーター(大塚製薬))
(参照:小児と青年における統合失調症 | MSDマニュアル家庭版)
1-2.妄想や幻覚、現実とのつながり喪失などが特徴
統合失調症の主な症状は、妄想(誤った思い込み)や幻覚(多くは幻聴)です。
- 他者が自分を傷つけようとしている
- 他者に思考を操作されている
などの妄想に取りつかれたり、聞こえるはずのない音が聞こえたりと、通常の社会生活に大きな支障をきたします。
妄想も幻覚も、本人にとっては現実です。他者への暴言や暴力、自傷、引きこもりなど二次的な問題が起こりがちです。
1-3.症状には陽性と陰性がある
統合失調症には陽性症状と陰性症状があります。1-2で説明した主症状は、陽性症状に分類されます。
陰性症状は、陽性症状が収まった後や、症状の休息期に現れます。社会復帰を進めたくても、陰性症状が強く出て進まないこともあります。
陰性症状の「陰性」とは、本来あるはずのものがなくなることを意味します。感情や意欲など、本来持っている能力が低下(喪失)します。
<主な陰性症状>
・感情の鈍麻により、喜怒哀楽がわからなくなる
・意欲・気力が低下し、周りのものにも自分にも興味がなくなる
・集中力がなくなり、物事を持続できない・人と関わる気持ちがなくなり、社会性が低下する
(参照:感情表現が乏しくなったり、意欲が低下したりする「陰性症状」とは? | 統合失調症ナビ)
1-3-1.陰性症状はADHDの特性と似ている部分がある
統合失調症の陰性症状は、注意欠陥・多動(ADHD)の特性と似ている部分があります。
ADHDは注意が散漫になることから、集中力が続きません。興味対象がすぐに移り変わるため、物事に取り組んでも意欲・気力がないように見えます。
陰性症状だけを見た場合、ADHDと間違われても不思議はありません。
なお、人と関わる気持ちの喪失は、自閉スペクトラム症(ASD)の症状と似ています。
ADHDとASDは併発することも珍しくありません。直接的にはASDの症状でも、ADHDの人にも多く当てはまります。
ASDが合併したADHDの症状であることも考えられます。
1-4.完治は不可能ではないが長期療養が必要
統合失調症は薬とリハビリで治療します。完治できない病気ではありません。しかし、再発の可能性は高く、長期療養が欠かせません。
服薬の中止により、1年以内に約80%の人が病気を再発するというデータがあります。再発を繰り返すほど、薬の効果も低下します。
症状が改善しても、適量の薬物療法を継続することが必要です。
(参照:丹羽真一編: やさしい統合失調症の自己管理 改訂版. 医薬ジャーナル社, 大阪, 2013, p. 73)
2.ADHDの原因と特徴
発達障がいの一つである、注意欠陥・多動(ADHD)の原因と特徴を説明します。
ADHDは統合失調症の陰性症状と似た特徴があるものの、病気ではなく特性です。
障がいへの考え方や対処法を知れば、病気と異なることがわかるでしょう。
2-1.遺伝的要因が大きい脳機能障がい
ADHDは遺伝要因を持つ人に環境要因が加わることで、症状が現れると考えられています。
とくに遺伝の影響は大きく、ADHDの80%が遺伝的要素に起因すると示す研究データもあります。(※注)
環境要因に挙げられるのは、以下の要素です。
・周産期の障がい(妊娠期の母体の健康状態悪化、出産時頭部外傷、20歳以下の出産、鉛不足、鉄不足、食品添加物の摂取など)
・妊娠中の母親のライフスタイルの問題(ニコチンやアルコール摂取)
・家庭の経済状況が悪いことや、家庭内の葛藤
ADHDの要因は、当事者にはコントロールできないことがわかります。本人の努力や親の躾は、障がいには影響しません。
ADHDは先天的な要素が強い障がいです。病気とは異なるため、根本的な治療はできません。不自由をもたらす特性と捉え、環境の調整や対症療法で克服します。
※注)オランダの研究論文による。
(参照:Hereditary factors in attention deficit hyperactivity disorder | Fliers EA,Franke B,Buitelaar JK)
2-2.注意力の不足や多動が特性の中心
ADHDの主な症状は、不注意や多動、衝動性です。
<ADHDの主な症状>
・集中できない
・気が散りやすい
・物をなくしやすい
・じっとしていられない
・静かに遊べない
・待てない
・ケアレスミスが多い
・仕事の納期を守れない
・物事を先延ばしにする
症状のいくつかは12歳以前から認められ、学校や家庭生活で困難にぶつかりがちです。とくに学校では、じっとしていられないことが大きな障がいになります。
- 落ち着きがない
- 物事に集中できない
などのレッテルを貼られることもあるでしょう。
うっかりミスや忘れ物も多く、叱責を受けることや、問題児扱いされることも少なくありません。
周囲からの評価が低いことで、気分が落ち込みやすく、自己肯定感も育ちません。心の病に結びつきやすくなります。
(参照:ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療 | e-ヘルスネット(厚生労働省))
2-3.根本的治療はできないが薬物で緩和が可能
ADHDは病気ではなく生まれながらの特性です。根本的な治療はできないものの、症状を緩和する薬が開発され、病院で処方されています。
<ADHDの症状緩和に用いられる薬>
・メチルフェニデート(登録医師・専門医療機関のみ)
・リスデキサンフェタミン
・アトモキセチン
・グアンファシン
薬剤には食欲低下や不眠などの副作用もあります。かかりつけ医と相談の上、生活状況にあった処方をしてもらいましょう。
薬剤だけで症状を抑え込もうとしないことも大切です。薬で一時的に症状を緩和できても、特性がなくなるわけではありません。
障がい特性にあわせた環境をつくり、問題行動へ積極的に介入し、まわりの人が支援することも必要です。
(参照:ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療 | e-ヘルスネット(厚生労働省))
2-4.特性にあわせた環境の整備が大切
ADHDの障がい克服にもっとも有効な手段は、特性が出ないよう環境を整えることです。
環境に介入し支援するには、周囲が障がい特性を理解していることが前提です。学校では先生やクラスメイトに、職場では同僚や上司に障がいへの理解を働きかけます。
周囲の協力が得られたら、注意が散漫し集中が妨げられないよう、工夫します。
学校なら、
・集中して勉強しやすい個別ブースをつくる
・目移りしないよう掲示物を一箇所にまとめる
・集中する時間を減らすため、短い時間に区切って勉強する
などの工夫が有効です。
通常学級の生活が難しいなら、特別支援学級への編入や通級(※注)も考えましょう。
職場では仕事に集中しやすい状態をつくります。
・電話や来客はほかの人に任せる
・できるだけひとつの仕事だけに取り組む
・大切なことは文書化して伝えてもらう
周囲の協力と本人の心がけで困難を減らせるでしょう。
※注)通級とは、通常学級に在籍しながら、支援が必要な部分のみ、特別な指導を受ける方法です。小学校〜高校で実施されています。
3.誤診もあり得る統合失調症とADHDの違い
統合失調症とADHDの、混同されやすい性質を説明します。
3-1.統合失調症でADHDと似ている症状は一部のみ
統合失調症の症状で、ADHDと似ているのは陰性症状の一部のみです。
統合失調症は「前兆期」「急性期」「休息期」「回復期」にステージがわかれます。妄想や幻覚など、特徴的な症状(陽性症状)が現れるのは急性期です。
ADHDと似た陰性症状は、主に休息期に現れます。妄想や幻覚が収まってからの症状です。陰性症状だけが突然現れることはありません。
ADHDと似た症状だけでは、統合失調症とは言えません。
<統合失調症とADHDの似た症状>
・意欲・気力が低下し、周りのものにも自分にも興味がなくなる
・集中力がなくなり、物事を持続できない
<統合失調症独自の症状(主要な症状)>
・妄想
・幻覚
・自分と他人の区別がつかない
3-2.統合失調症とADHDの遺伝的要素の違い
統合失調症もADHDも、遺伝が発症の原因になり得ます。
遺伝が大きな割合を占めるADHDに対し、統合失調症では因子の一つに過ぎません。
<統合失調症の発症>
発症しやすい因子を持つ人が、思春期以降に身体的・外的ストレスにさらされることで発症します。因子の一つに遺伝子の障がいが挙げられます。
<ADHDの発症>
遺伝的要因と環境要因(周産期の障がい、家庭環境など)が組みあわさることで、特性が幼少期から現れます。
統合失調症は身体的・外的ストレスがなければ発症しません。遺伝だけに原因を求めるべきではないのです。
3-3.統合失調症とADHDはドーパミンの働きが異なる
統合失調症もADHDも、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの特異性が指摘されています。
しかし、ドーパミンの働き方は両者で真逆です。
3-3-1.統合失調症はドーパミンの働きが過剰
統合失調症は、ドーパミンの働きが過剰であると推測されています。(症状を説明する仮説の一つです)
ドーパミンは快楽を司る神経伝達物質です。ドーパミンが適切に働くと、幸福感が増し、やる気の向上につながります。
働きが過剰すぎると、神経は必要以上に過敏になります。妄想や幻覚が起こりやすくなり、現実がうまく認識できない状態をもたらします。
統合失調症では、ドーパミンの過剰により、深刻な陽性症状が引き起こされるのです。
(参照:統合失調症の急性期について | 京都府)
3-3-2.ADHDはドーパミンがうまく働かない状態
ADHDはドーパミンがうまく働かない状態です。ドーパミンの機能が阻害されているため、物事にやる気を感じず、集中できません。
目の前の物事からすぐに集中がそれるため、注意欠陥や多動になります。
(参照:ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療 | e-ヘルスネット(厚生労働省))
3-3.統合失調症とADHDで異なる薬の考え方
統合失調症とADHDでは薬に対する考え方が異なります。
<統合失調症の発症>
薬物療法と精神科でのリハビリを並行しておこないます。薬をやめると症状が再発しやすいため、長期にわたり継続的な服薬が必要です。
<ADHDの発症>
環境調整や、行動の支援を優先的におこないます。改善が見られない場合は薬物療法も組みあわせます。
ADHDは薬で症状を抑え込んでも、あまり意味がありません。一時的に症状が改善しても、特性は何度でも現れます。薬よりも環境調整、行動支援を優先したほうが効果的です。
薬の長期服用が必須の統合失調症とは、大きく異なる点です。
4.統合失調症とADHDの併発
統合失調症とADHDは併発する可能性もあります。併発状況と要因を確認しましょう。
4-1.統合失調症とADHDは併発が多い
統合失調症患者は、ADHDを併発していることが多くあります。
精神医学の独自研究で有名な研医学雑誌「Acta Psychiatrica Scandinavica」によれば、統合失調症患者の47%が、小児期または成人期にADHD症状を示していたと報告されています。
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4-2.合併の理由は発症要因の重なりとストレス
併発の原因は2つあります。
- 統合失調症の因子とADHDの要因に重なる要素があること
- ADHDの人が感じるストレスが統合失調症の引き金になること
4-2-1.統合失調症の因子とADHDの要因に重なる要素がある
統合失調症の因子とADHDの要因には、重なる部分があります。両者を比較してみましょう。
統合失調症の因子 | ADHDの要因 |
・遺伝子の障がい
・周産期の障がい ・脳の軽度の構造異常 ・脳の機能異常 |
・遺伝要因
・周産期の障がい ・妊娠中の母親のライフスタイルの問題 ・家庭の経済状況が悪いことや、家庭内の葛藤 |
「遺伝」と「周産期の障がい」は重なることがわかります。
統合失調症の因子を持つ人は、ADHDの特性も持ちやすいのです。
4-2-2.ADHDの人が感じるストレスが統合失調症の引き金になる
ADHDの人が感じる大きなストレスが、統合失調症の引き金になる可能性もあります。
統合失調症は因子に身体的・外的ストレスが重なり発症します。
ADHDの人は、注意力が散漫で集中できない特性から、周りとうまくいかず、外的ストレスを抱えがちです。
ストレスがきっかけで、統合失調症を発症することも考えられるのです。
5.統合失調症にもADHDも有効な認知行動療法
統合失調症のリハビリによく使われるのが、認知行動療法です。
薬物療法と並行して、比較的安定した時期に実施されます。一人ひとりの状況にあわせた個人セッションで、患者に無理のない形で提供されます。
認知行動療法は、ADHDの症状緩和にも有効です。心療内科や精神科の医師からの紹介で、専門家を紹介してもらえます。
気になる人は診察時に相談してみましょう。
※注)この章は、日本認知療法・認知行動療法学会が発行する「統合失調症/精神症の認知行動療法マニュアル」を参照し記述しています。
(参照:統合失調症/精神症の認知行動療法マニュアル | 日本認知療法・認知行動療法学会)
5-1.認知行動療法は症状を客観視し心を整理する心理療法
認知行動療法は、自分の思考や行動を客観的に認識し、正しい方向へ導く心理療法です。
鬱病や不安症の治療に開発されたものの、現在はさまざまな精神疾患で活用されています。統合失調症やADHDの治療でも、症状にあわせた形式で提供されています。
5-1-1.ADHDで期待される効果
ADHDの特性は薬で一時的に抑えられます。しかし病気ではないため、特性が消えるわけではありません。
認知行動療法を受ければ、障がいを正しく認識できます。心の正しい持ちかたの習得に役立つでしょう。思考や行動が変われば、特性も出にくくなります。
5-2.認知行動療法の流れ
認知行動療法は、以下の手順で進められます。
<統合失調症の治療で使われる認知行動療法の流れ>
■初期(最初の1〜3回)
①患者との関係づくり
②問題の認識と目標設定
③治療法の説明と共有
④心理教育
⑤症状の客観視
■中期
症状ごとに治療を開始し、目標達成する
例)ADHDの場合
- 注意持続訓練
- 怒りのコントロール
- 対人スキル訓練
■終結期(最後の2〜3回)
成果の維持と再発防止に向けた取り組み
統合失調症の場合、認知行動療法終了後もほかの治療が継続されます。
さいごに
ADHDと統合失調症は似ている部分があり、混同されがちです。併発も多くあります。
統合失調症の前兆を見逃すと、大きな社会的困難に直面する可能性があります。陽性症状が現れると通常の社会生活が難しく、社会復帰に長い時間がかかります。
ADHDと明確に区別し、不安があれば早めに病院を受診することが大切です。
高校生までの障がいのある子どもには、児童発達支援や放課後等デイサービスでの療育も有効です。
質の高い療育で障がいを克服し、日々ストレスなく生活する方法が身につきます。障がい特性に起因する精神疾患も防げるでしょう。
こどもプラスでは、全国190拠点で放課後等デイサービスを運営しています。一人ひとりに寄り添う療育で、障がいのある子ども達を支援してきました。
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