発達障がいの子どもをごっこ遊びに導くポイントと遊びの具体例
児童発達支援事業所や放課後等デイサービスで、子ども達にごっこ遊びを提供したいと考える管理者様もいらっしゃるでしょう。
発達障がい(とくに自閉スペクトラム症)の子ども達は、ごっこ遊びが苦手だと言われます。その理由は特性の一つとして、想像力や表現力に乏しいところがあるからです。
しかし、ごっこ遊びがまったくできないわけではありません。大人が見本を示し、適切に支援すれば、子ども達は自分の世界に没頭します。
「特性があるからできない」と決めつけないことが大切です。
この記事では、発達障がいの子どもがごっこ遊びに向きあうのに必要な手順を説明します。
大人の取るべき姿勢や、子どもの能力を伸ばす方法が理解できるでしょう。ごっこ遊びの具体例も、いくつか紹介します。日々の療育でお試しください。
1.ごっこ遊びとは
ごっこ遊びの基本を説明します。年齢ごとの特徴や、ごっこ遊びで獲得できる能力を説明します。
1-1.ごっこ遊びは真似や「ふり」をする遊び
ごっこ遊びとは、身近な人や架空のキャラクターのふりや、生活動作を真似る遊びです。
おままごとやヒーローごっこ、お店屋さんごっこなど、バリエーションは多岐にわたります。
遊びは成長に従い発展します。はじめは一人で遊んでいても、徐々に友達や周りの大人を巻き込むようになるでしょう。
1-2.年齢が上がると遊びを他者と共有し複雑化する
ごっこ遊びは、年齢が上がるごとに複雑化します。
本記事では4つのステップをまとめ、広義のごっこ遊びとして説明します。
<ごっこ遊び(広義)のステップ>
STEP1.ふり遊び:道具は使わず、飲むふり、食べるふりなど、動作の真似事をする
STEP2.見立て遊び:身近な道具をほかのものに見立てて遊ぶ
STEP3.ごっこ遊び(狭義):見立て遊びと連動し、具体的な場面を想像して遊ぶ。お料理ごっこ、ヒーローごっこなど
STEP4.役割遊び:他者と遊びの世界を共有しながら、役割分担して遊ぶ
発達段階ごとに最適な遊び方をわかりやすく解説します。
1-2-1.1歳で日常動作のふりをする「ふり遊び」が始まる
ごっこ遊びの始まりは1歳です。親の行動を観察し、日常動作の真似る「ふり遊び」が始まります。
子ども達は、
・ぬいぐるみにご飯をあげる仕草
・手を口元に持っていき、スプーンで食べるふり
など、親が生活で見せる動作を真似します。
まだ道具は必要ありません。手や指の動きだけで楽しみます。
1-2-2.2歳後半から「見立て遊び」で想像力を発揮する
2歳後半から始まるのが、身近なものをほかのものに見立てて遊ぶ「見立て遊び」です。
食材に見立てた小さなブロックや、道路に見立てた床や壁など、身の回りのあらゆるものが遊びの道具になります。
見立てができると、自然と「ごっこ遊び(狭義)」に発展します。
・小さなブロックを食材に見立てて料理する(お料理ごっこ)
・ベッドを車に見立て、運転しているつもりになる(運転ごっこ)
などがよくある遊びです。
子ども達は身の回りのもので、知っている世界を一生懸命に表現します。想像する楽しさ、自分だけの世界をつくる喜びに、夢中になるでしょう。
1-2-3.4歳前後で遊びを他者と共有する「役割遊び」に発展する
ごっこ遊びの世界は、成長に従って細かくなります。自分だけでは飽き足らず、他者と世界を共有し始めると、「役割遊び」が始まります。
料理を作り配膳するだけだった「お料理ごっこ」は、複数人と進めるおままごとに発展します。おままごとは代表的な役割遊びです。
おままごとでは、料理を食べる赤ちゃん役、赤ちゃんの介助にあたるお母さん役など、リアリティが大切です。
子ども達は世界の作り込みに神経を使い、細部まで完璧に演じようとします。
同じものが好きな子どうしなら、世界を共有しやすく、楽しく遊べます。特定の友達との関係性が徐々に深まるでしょう。
(参照:自閉症児に対するふり遊び研究の成果と課題 | 立命館人間科学研究 第8号)
1-3.想像力や表現力、コミュニケーション能力が身につく
ごっこ遊び(広義)をとおして、子ども達はさまざまな力を獲得します。
見立て遊び・ごっこ遊び(狭義)には想像力が欠かせません。見立てにより、子ども達の豊かな想像力が育まれます。
他者と遊びを共有するには、表現力やコミュニケーション能力も必要です。
子ども達は遊びの中で、徐々に力を獲得します。自分の想いを伝える大切さや、他者理解の難しさ、心が通いあう楽しさも学ぶでしょう。
発達障がいの子どもはごっこ遊びが苦手と言われる理由4つ
発達障がいの子どもは、一般的にごっこ遊びが苦手と言われます。
発達障がい(とくに自閉スペクトラム症)の特性から、ごっこ遊びに必要な力を持てないと考えられるためです。
自閉スペクトラム症(ASD)は、主に遺伝的な要因で生じる脳機能障がいです。独特の感性やこだわりの強さ、対人関係の不得意などに特徴があります。
想像力や表現力を要するごっこ遊びにも、影響が出ないとは言い切れません。
2-1.他者と関心を共有できず、親の真似をしない
ASDの子どもは独特の感性を持っています。興味が限定的で、他者と共有できません。
相手が親でも同じです。親の行動に興味がないため、あまり真似をしたがらないでしょう。
ごっこ遊びは、身近な人の真似から入ります。親の行動に興味がなければ、ごっこ遊びを始める動機につながりません。
2-2.ものごとを想像する力が弱い
ASDの子どもは、ものごとを想像する力が弱い傾向にあります。他人が考えていることを適切に想像できないため、人間関係や社会性に問題が生じがちです。
想像力が弱いと、目の前の物を遊びの世界に結びつけられません。ブロックが食材に変化することはなく、ブロックのままです。
見立てができないため、ごっこ遊びを始めづらいことがあります。
2-3.創造的な遊びよりも常同的な行動を好む
ASDの子どもはこだわりが強く、一つのものに執着する傾向があります。新しいものの創造よりも、常同的な行動を好みます。
- 手遊びを延々と繰り返す
- お気に入りのおもちゃだけでしか遊ばない
など、遊び方にも常同的な特徴があります。
ごっこ遊びは、頭の中の世界を広げる遊びです。同じ動作が好きなASDの子どもに、頭の中に新たな世界をつくる遊びかたは適していません。
関連記事:常同行動とは?その行動の理由と治療法について(こどもプラス川越新河岸教室)
2-4.他者と遊びを共有する力が弱い
ASDの子どもは、他人との適切な距離感がわかりません。円滑なコミュニケーションは苦手な傾向にあります。
ごっこ遊びは、他者と世界を共有することで発展します。ASDの子ども達は、遊びの世界を友だちに伝えようとしても、うまく言葉にできないでしょう。
共有できる仲間ができづらいため、つまらなくなってやめてしまいます。
3.発達障がいの子どもは本当にごっこ遊びが苦手なのか?
子ども達と遊ぶ上で大切なのは、「この子はASDだからごっこ遊びが苦手」という先入観を取り去ることです。
特定のASD児を対象にした研究(※)では、見立てや共有の段階を踏みながら、ごっこ遊びに興じる姿勢が示されています。
定型発達児との違いは、遊びにASD特有の癖が見られることです。大人が癖を理解して付きあえば、定型発達児と変わらない遊びができます。
※)本章は以下の研究論文を参照しています。
(参照:自閉症スペクトラム児における象徴機能と遊びの発達 | 立命館人間科学研究)
3-1.研究論文が示すASD児のごっこ遊びの特徴
立命館人間科学研究の論文によれば、ASD児のごっこ遊びには、以下の特徴が挙げられます。
<定型発達児と変わらない特徴>
・見立て遊びから、役割遊びに変化する過程を辿る
・成長するほど、遊びの枠組みや展開を自分で設定する活動が増加する
・新たな遊びを提案し覚えられれば、次回から遊びのレパートリーに加えられる
<ASD児に現れがちな特徴>
・自分主導で展開する遊びが多く、相手主導で展開する遊びは少ない(相手の世界を受け入れ、あわせて遊ぶのが苦手)
・遊びの世界に入りきれず、遊びの枠組みや展開を規定しようとする発言が多い(「〜って言って」「ここでは〜して」など)
・生活経験に根ざした型のある遊び(買い物や食事など)が多く、身近な人としか共有できない
・繰り返しの要素が多く、即興的な展開がされにくい
3-2.想像力はあるが表現方法が特殊
ASDの子どもに、想像力がないわけではありません。見立てに必要な想像力は、定型発達児と同じです。想像力がないと捉えられるのは、表現方法が特殊だからです。
ASDの子どもが生活経験を再現すると、延々と同じ動作の繰り返しになるかもしれません。
・コップに見立てたブロックに、ひたすら水を注ぐ
・料理に見立てた小物を、綺麗に並べる行為に集中する
毎日同じ行動だけを、飽きずに繰り返すこともあります。
親は子どもの様子を見て、発展性がないと疑問に思うでしょう。コップに水を注いだら、飲食するのが当然だと考えるからです。
特定の行動を気に入り、繰り返すのはASDの大きな特徴です。
繰り返しの行動でも、頭の中では物語が発展している可能性もあります。コップに水を注いているときでも、家の中や外、知っている場所を水浸しにする想像で楽しんでいるのかもしれません。
限定的な興味によって、表現が独特になることを忘れずにいましょう。
関連記事:会話が噛み合わない原因はアスペルガー症候群?その特徴と改善法を解説
3-3.苦手なのは他者と共有する力
ASDの子どもは表現が独特です。他者と遊びを共有するのは苦手になりがちです。
こだわりを理解してもらうには、遊びの枠組みや展開の詳細な説明が欠かせません。説明を尽くしても伝わらず、友達と遊べないこともあります。
苦手の解消には、他者と世界を共有する手助けが必要です。
手助けが適切におこなわれないと、一人遊びから脱却できません。自分の世界が他者に伝わらないもどかしさから、遊びをやめてしまう可能性もあります。
4.発達障がいの子どもをごっこ遊びに導く方法
発達障がいの子どもを、ごっこ遊びに導くにはどう工夫すべきでしょうか。目標は、友だちや先生と役割遊びが円滑にできることです。
現場の先生は、次の手順で指導します。
・ごっこ遊びに取りかかるきっかけをつくる
・本人のこだわりを否定せず、想像の世界に寄り添う
・友だちと遊べるよう、共有を手助けする
それぞれの段階に指導のポイントがあります。
4-1.きっかけづくり①大人が身の回りのもので遊んでみせる
家ではごっこ遊びをしても、教室ではできない子どももいます。教室でごっこ遊びをした経験がないため、遊んで良いかわからないのです。
先生が見本を示せば、子ども達も真似します。
見本には、子ども達の生活に根差したテーマを採用すると良いでしょう。ASDの子ども達は、日常の経験に密接な関係がある遊びを好むからです。
一例として、教室への送迎の見立て遊びが挙げられます。
車に見立てた長座布団に座り、車の運転ごっこ遊びをします。四角い絵本をハンドル代わりにすると、雰囲気が出るでしょう。
ほかの職員とも協力し、「生徒役」「補助の先生役」「保護者役」など細かく設定します。生徒の送迎を、面白おかしく再現しましょう。
4-1-1.備品を購入する必要はない
ごっこ遊びに特別な道具は必要ありません。子ども達は身の回りの道具で、想像力を働かせます。絵本がハンドルになり、ブロックが食材になります。
具体的な道具を与えすぎると、子ども達が創造する範囲は狭まってしまいます。ごっこ遊びには逆効果です。
4-2.きっかけづくり②子どもの興味を見極める
先生が示す遊びに興味が持てないと、子ども達はいつまでも遊ぼうとしません。
興味は性格や環境で異なります。送迎の見立て遊びをしても、まったく楽しめない子もいます。
子どもが興味を示さない場合、さまざまな遊びで興味の対象を探し出しましょう。子どもが知っているヒーロー物やアニメ、おとぎ話などを題材にするのも良いかもしれません。
4-3.こだわりの否定はせず一人ひとりの世界を大切にする
ごっこ遊びが始まったら、自由に遊ばせて様子を見てください。
強いこだわりで遊びが先に進まなくても、否定しないようにしましょう。本人は想像の世界を楽しんでいます。
先生は子どもの世界を尊重します。
タイミングを見て、
「今、なにしているの?先生も混ぜて」
と、子どもの世界に歩み寄りましょう。
子どもは、
「これは〇〇で、こっちは〇〇」
と、独特の世界を楽しそうに教えてくれるでしょう。
想像力が存分に発揮されていると実感できるはずです。
4-4.遊びの世界を共有できるよう手助けする
ごっこ遊びを広げるには、世界の共有が必要です。先生は、子どもどうしが一緒に遊べるよう手助けします。
ASDの子どもは、他人と遊ぶのが得意ではありません。
自分が主体のごっこ遊びでは、友達にルールや展開を何度も説明します。こだわりを押しつけてしまいがちです。
相手が主体の場合、興味の対象が異なるため意欲的になれません。
先生は、子ども達の興味(こだわりポイント)をつなぐ役割です。
一緒におままごとをする場合、配膳にこだわり続けるA君と、ひたすら料理の真似事に興じるB君では、興味の対象が異なり、一緒に遊べません。
・先生はA君とB君を仲立ちします。
・B君から料理を受け取り、A君に手渡します。内容を細かく伝えると良いでしょう。
・A君は適切なお皿に、B君の料理を配膳します。
・A君には、食卓に足りない料理をリクエストしてもらいます。先生は提案内容をB君に伝えましょう。B君は喜んで料理してくれるでしょう。
A君とB君は先生をとおしてつながります。お互いの世界を崩さず、一緒に遊べるようになるでしょう。
5.発達障がいの子どもに提案するごっこ遊びの具体例
ごっこ遊びの支援ポイントがわかったら、提供する遊びを選定します。以下の2点が選定基準です。
- 子ども達にとって身近で、興味を持ちやすいこと
- 遊びの世界の共有で、先生が仲介役に入りやすいこと
一人で遊ぶふり遊びからはじめ、徐々に複数人で共有する遊びに変えていきます。
5-1.生活を再現する遊び
子ども達にとって身近で取り組みやすいのが、生活を再現する遊びです。
子どもの発達段階にあわせ、簡単な内容から始めましょう。
<生活を再現する遊びの例>
・料理、食事、洗濯、掃除などの家庭生活
・保育園(幼稚園)での生活動作
・車や電車でのお出かけ
・買い物行為(商品をかごに入れる、セルフレジで精算するなど、主体のみ)
生活の再現は、他者とイメージを共有しづらい難点があります。複数人でおこなうのではなく、一人遊びに向いています。
ごっこ遊びの最初の取り組みに据えると良いでしょう。
5-2.子どもが好きなキャラクターになりきる
子どもが好きなキャラクターになりきるのも良いでしょう。
一人遊びを、友達との役割遊びに発展させられます。子どもが興味を持ちやすい内容で、イメージの共有も容易です。
ASDの子に提供する場合、2点注意があります。
・多くの子どもが好きなキャラクターでも、当該児童も好きと決めつけない(興味を持てず、知らない可能性もある)
・好きなものには、こだわりが強く出る。お互いに譲らない場合、無理に共有させない
先生は、一人ひとりの反応や、こだわりのポイントを見極めなければなりません。
興味対象が似ている子どもどうしなら、遊びの世界を共有しやすく、一緒に遊べるでしょう。
こだわりが原因でぶつかりそうなら、無理強いしません。
5-3.役割を決め複数人でお店屋さんごっこ
遊びの世界を共有することに慣れた子どもは、さまざまな役割遊びが楽しめます。
お店屋さんごっこは、役割遊びでもっとも取り組みやすいテーマです。日常生活に根ざしており、子どもごとのイメージのずれが少ないからです。
A君は品出し、B君は買い物客、C君はレジの店員、D君はスーパーで会う近所のおばさんなど、役割を決め、大人数で遊んでみましょう。
5-4.そのほかの遊びの例
以下の遊びも、子ども達が取り組みやすいテーマです。子どもの発達段階にあわせて提供します。
<一人でできる、ごっこ遊び(狭義)>
・乗り物ごっこ(車、電車、飛行機)
・クイズごっこ(自分自身で質問者・解答者になりきる)
・お医者さんごっこ(患者はぬいぐるみで対応)
・魚釣りごっこ(小さなおもちゃを棒状のもので釣るふり)
<複数人でおこなう役割遊び>
・教室にある絵本の再現
・お医者さんごっこ(医者役・患者役・看護師役)
・撮影ごっこ(カメラマン役・モデル役)
・魔法ごっこ(魔法をかける人、かけられる人)
(参照:自閉症スペクトラム児における象徴機能と遊びの発達 | 立命館人間科学研究)
遊びを取り入れた療育のことをもっと知りたい方はこちらの記事もおすすめです。
さいごに
発達障がいの子どもは、ごっこ遊びが苦手だと言われます。想像や共有が困難な特性があるためです。
しかし、実際は定型発達の子どもと同様に、想像力を働かせて自分の世界で楽しみます。
延々と同じ行為を繰り返す、特定の部分にこだわるなどの特性で、想像力が伝わりにくいのです。親や先生の手助けが必要な部分は、他人との共有です。
発達障がいの子どもは、自分の世界を他人に伝えるのも、他人の世界の受け入れも苦手です。大人が仲立ちし、子どもの世界を結びつけましょう。
ごっこ遊びの指導は、以下の手順でおこないます。
・ごっこ遊びに取りかかるきっかけをつくる
・本人のこだわりを否定せず、想像の世界に寄り添う
・友だちと遊べるよう、共有を手助けする
提供する遊びは、子どもにとって身近で、大人が手助けしやすいものを選びます。
生活の再現やキャラクターへのなりきりは、子どもが興味を持ちやすく、取り組みやすいでしょう。
私たちこどもプラスでも、毎日の療育でさまざまなごっこ遊びを実践しています。全国190の教室からは、ごっこ遊びの成功例が多数寄せられています。
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